会社を退職する際に退職金を支給されるところもあります。退職金は給料と同様に所得税や住民税が天引きされたうえで支給されます。
こちらの記事では退職金に関する基礎知識や退職金の平均額、退職金にかかる税金や計算方法などについて紹介します。
退職金の基本知識
退職金は退職を機に支払われるものであり、長きにわたって会社に貢献したことに対する報償や、老後の生活支援としての性質を有するものです。こちらでは退職金についての基本的な内容をお伝えします。
退職金はすべての会社で支払われるものではない
退職金は、会社を退職する際にどの会社でも支払われるような印象を受けますが、現実にはそうではありません。労働基準法24条において、労働の対償である賃金については通貨により直接労働者に対して、その全額を毎月1回以上一定の期日に支払うという義務規定が存在します。しかし退職金については法律の規定がありません。会社でのルールである就業規則等に退職金の支払いに関する規定が明示されていることもありますし、慣習として支払われることもあります。
退職金の支払い方法は会社によってさまざま
退職金の支払いというと、退職時に一括して支払われるイメージを持たれているかもしれませんが、会社によってさまざまです。
一時金以外にも、退職後の数年にわたって支払われる有期年金の形式をとるところもあります。また、退職金の一部を一時金で残額を有期年金として支払われるところもあります。さらには、ごくまれですが毎月支払われる賃金に退職金の一部を加算して支払われることもあります。
退職金は平均いくら?相場を調査
会社に勤務している方にとっては、どういう理由にしてもいずれは退職します。退職金制度の有無や退職金の相場がいくらなのか気になるところです。実際の退職金の計算方法は勤務先会社の規定によりますが、厚生労働省などの統計調査でわかる世間の相場を確認してみましょう。
退職金制度は会社規模や業種で差が見られる
従業員規模における退職金制度の導入率を見てみると、従業員規模の大きい会社ほど退職金制度が存在している会社が多いことがわかります。全企業の80%以上が何らかの退職金制度を設けています。
もう少し細かく見ていくと、従業員100~299人の会社だと84.9%、300~999人の会社だと91.8%、1,000人以上の会社だと92.3%が退職金制度を導入しています。これに比し、30人~99人の会社だと77.6%となり、一気に導入率が低下しています。
業種別で退職金制度の有無を見てみると、複合サービス業で96.1%、鉱業、採石業、砂利採取業が92.3%と続いています。これに比して、宿泊業・飲食サービス業といった人手を要する業種では59.7%と著しく低くなっています。
厚生労働省 平成30年就労条件総合調査|3 退職給付(一時金・年金)制度
どのような人が退職金を多くもらえるのか
退職金の支給実態を見ると、会社への貢献具合を表す勤続年数だけでなく、学歴、退職事由(定年、自己都合、会社都合、早期退職制度に応募)で差が見られます。勤続年数が長ければ長いほど、自己都合よりも会社側の事情により退職せざるを得なくなった場合、学歴が高ければ高いほど退職金の額も多くなる傾向が如実に表れています。
厚生労働省の統計では、勤続年数、退職理由、学歴という3つの切り口で平均の退職金額を算定していますが、それ以外にも退職時の役職により退職金の額に差をつけている会社もあります。
厚生労働省 平成30年就労条件総合調査|4 退職給付(一時金・年金)の支給実態
退職金の一覧表
学歴
|
勤続年数 (年)
|
自己都合退職 | 会社都合退職 |
支給金額(円) | 支給金額(円) | ||
高校卒
|
10 | 898,000 | 1,227,000 |
15 | 1,702,000 | 2,230,000 | |
20 | 2,796,000 | 3,441,000 | |
25 | 4,235,000 | 5,049,000 | |
30 | 5,779,000 | 6,778,000 | |
定年 | – | 11,268,000 | |
高専
・短大卒 |
10 | 1,060,000 | 1,365,000 |
15 | 1,949,000 | 2,432,000 | |
20 | 3,219,000 | 3,765,000 | |
25 | 4,844,000 | 5,541,000 | |
30 | 6,707,000 | 7,490,000 | |
定年 | – | 11,066,000 | |
大学卒
|
10 | 1,215,000 | 1,574,000 |
15 | 2,298,000 | 2,836,000 | |
20 | 3,733,000 | 4,358,000 | |
25 | 5,697,000 | 6,363,000 | |
30 | 7,852,000 | 8,523,000 | |
定年 | – | 12,034,000 |
退職金にかかる税金の手続き
これまで退職金そのものに関する説明をしてきました。こちらでは、いざ退職金を支給されることになった場合の手続きについてご説明します。
「退職所得の受給に関する申告書」を提出する
手続きとしては、退職金を受給する日までに退職する者が会社に「退職所得の受給に関する申告書」を提出するだけです。公的機関に書類を提出する必要まではありません。
税務調査において税務署から提出を求められることがありますので会社で保管するようにしましょう。源泉所得税に関して調べられる際にはこちらの書類を必ずといっていいほど確認されます。きちんと保管がされていない場合には、源泉所得税の過少申告加算税などペナルティの対象にもなりかねません。
退職金にかかる税金の計算方法
退職金の性質に関しては最初の方でも述べた通り、会社への貢献に対する報償や老後の生活援助の性質を有しています。そのため給与等にかかる税金とは独立した計算方法に基づき、給与等よりも低率の税金がかけられます。
退職金を受け取る際には、原則として会社が退職金にかかる所得税や住民税を天引きして納付してくれます。それで退職金にかかる課税関係は終了です。
退職金にかかる「所得税」の計算
まず退職金にかかる所得税の計算方法を解説します。
基本的に「退職所得の受給にかかる申告書」を会社に提出しますので、その書類を提出した場合の所得税の計算をメインにご説明します。
退職所得にかかる所得税は
- 退職所得=(税引き前の退職金-退職所得控除)×0.5
- 退職所得にかかる所得税=退職所得×所得税-控除額
という手順で計算します。
勤続年数のカウント方法
退職所得控除の計算の前提として勤続年数をカウントする必要があります。ここにいう勤続年数ですが、実際の勤続年数と若干のずれが生じます。具体的には1年未満の端数を1年に切り上げます。
例えば勤続年数が5年8か月の場合だと6年として扱い、勤続年数が20年1か月の場合は21年として計算します。
退職所得控除の計算
勤続年数のカウント方法が理解できれば、次に退職所得控除の計算方法を解説します。勤続年数の20年を境に計算方法が若干変わります。
勤続年数が20年以下の場合 | 40万円×勤続年数(80万円未満になる場合は80万円とします) |
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勤続年数が20年超の場合 | 800万円+70万円×(勤続年数-20) |
退職所得控除の計算にあたって、2つの大きな特例があります。
- 勤務先で負った障害が原因で退社した者は、通常の退職控除額に100万円を加算します。
- 退職金を受け取る者が「特定役員等」に該当する場合は、退職所得の計算にあたって「退職所得控除」と「×0.5」の部分が適用されません。
特定役員等とは
法人の取締役や監査役、執行役員、国会議員や地方公共団体の議員、国家公務員や地方公務員等(役員等という)としての勤続年数が5年以下の者のことを指します。この場合の勤続年数の算定にあたって、1年未満の端数を1年として扱います。短期間で役員等の職務に繰り返し就任して退職金をもらうということは、課税の公平性の観点から問題があるための規定です。
退職所得にかかる所得税の額
退職所得まで算出したら、下記の源泉徴収額の速算表に基づいて税額【(A)×(B)-(C)】を計算します。
課税退職所得金額(A) | 所得税率(B) | 控除額(C) |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
※なお現在は東日本大震災からの復興財源を確保する目的で、令和19年12月31日まで、源泉徴収される所得税に2.1%を乗じた額を復興特別所得税として併せて源泉徴収することとされています。
ちなみに、退職所得の受給に関する申告書が提出されていない場合の所得税の額は退職金の額に20%(現在は復興特別所得税0.42%を加算した20.42%)を乗じた額となります。
退職金にかかる「住民税」の計算
退職所得にかかる住民税の計算はシンプルで、所得税の計算の際に用いた退職所得を元に算出します。
退職所得×10%(個人市民税6%+個人県民税4%)
これで算出できます。
退職金にかかる税金の計算シュミレーション
ここまで退職所得にかかる所得税や住民税の計算方法を確認しました。それでは設例を用いて退職所得にかかる税金を計算してみましょう。
設例①
勤続9年2か月で退職した者が、退職にあたり800万円の退職金を受け取ることになった場合、退職所得にかかる所得税・住民税の額を求めましょう。ただし、退職にあたって退職所得の受給に関する申告書を提出した者であって、勤務中による障害を理由とした退職でもなく、特定役員等にも該当しないものとします。
- 計算上の勤続年数:9年2か月→10年
- 退職所得控除の計算:40万円×10年=400万円
- 退職所得の額:(800万円-400万円)×0.5=200万円
- 所得税額:200万円×10%-97,500円=102,500円
- 復興特別所得税額:102,500円×2.1%=2,152円(円未満端数切捨て)
- 住民税:200万円×10%=200,000円
- よって退職所得にかかる税金の合計:102,500円+2,152円+200,000円=304,652円
設例②
勤続20年1か月で退職した者が、退職にあたり1,500万円の退職金を受け取ることになった場合、退職所得にかかる所得税・住民税の額を求めましょう。ただし、退職にあたって退職所得の受給に関する申告書を提出した者であって、勤務中による障害を理由とした退職でもなく、特定役員等にも該当しないものとします。
- 計算上の勤続年数:20年1か月→21年
- 退職所得控除の計算:800万円+70万円×1年=870万円
- 退職所得の額:(1,500万円-870万円)×0.5=315万円
- 所得税額:315万円×10%-97,500円=217,500円
- 復興特別所得税額:217,500円×2.1%=4,567円(円未満端数切捨て)
- 住民税:315万円×10%=315,000円
- よって退職所得にかかる税金の合計:217,500円+4,567円+315,000円=537,067円
実際に計算すると上記のようになります。計算の手順としては少々面倒ですが、ご自身でも計算できます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。退職金について意外と知らなかったこともあったのではないでしょうか。
退職金は仕事を辞めざるを得なくなった場合や定年後の生活を一時的に支える大事な資金です。そこで将来の不安に備えて身に着けておくべきお金の知識の一つだと思いますので、ぜひこちらの記事を参考にしてください。