会社を退職する際に公的年金・保険の引継ぎに関する資料や確定申告に必要な資料をもらいます。確定申告については何となく話は聞いたことがあるけど、やり方なんて全く知らない方もいらっしゃると思います。
そこで今回は、転職・退職にあたって確定申告が必要かどうか、必要な場合の手続きについて詳細にご説明します。
転職・退職したら確定申告は必要?

勤務していた会社から確定申告についての説明はあると思いますが、実際には転職後の確定申告については強制の人、不要の人、任意の人に分けられます。ただ、任意の人のほとんどは確定申告にすることによるメリットがありますので、面倒くさがらず手続きをしましょう。
確定申告を行う方がよい人
こちらに該当する者は1年間の給与・賞与の収入合計に基づいて、年間で納付すべき所得税の額が確定していない人です。なぜなら前職で所得税を天引きされて会社を通じて納付していたといっても、天引き分はあくまでも1年間の所得税の「仮払い」です。
実際納付すべき所得税の計算にあたっての扶養控除や社会保険料控除、生命保険料控除などが加味されていません。そのため上記の方が確定申告することにより、所得税の還付を受けられることが多いです。
義務ではありませんが、確定申告を行うことによって所得税が一部還付されるケースがありますし、その所得税の計算に基づいて計算される住民税も負担額が少なくなることもあります。
具体的にどのような人が対象か実例を挙げます。
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※1 給与・賞与の収入総額が103万円以下の場合は税金計算の基礎となる給与所得は0円になるので、本来所得税はかかりません。そのため、毎月給与が支給される際に「所得税を源泉徴収されている場合」には、その分を確定申告によって還付を受けることができます。
※2 原則として医療費の負担額が10万円を超えた場合には確定申告の対象になりますが、給与所得その他を含めた合計所得が200万円に満たない場合には、医療費負担額が「合計所得×5%」を超えた場合は両者の差額が所得控除になります。この場合も確定申告により所得税が還付されます。
確定申告の義務がある人
一定の要件に該当する人は、所得税の確定申告をする義務があります。
- 給与所得が2,000万円を超える場合
- 給与・賞与以外の副収入が20万円を超える場合
これらの者について年間所得税の確定にあたって会社の方だけで手続きを終わらせるのではなく、確定申告を行ってもらうことにより収入の出所を管理し、適切な申告・納税が行われているか一層の管理が求められているために、確定申告が義務付けられています。
確定申告が不要な人
この具体例としては、1月から転職先の職場で働き始めたものの、前職での昨年12月分が1月になって支給された場合が挙げられます。前職の方である月の給料が翌月の特定の日に支払われることが労働契約等によって明確にされている場合には、支払日の属する月が給与確定月となります。この場合は確定申告の対象にする必要はありません。
確定申告の必要な人、不要な人の一覧表
少々難しい内容だったと思いますので表にまとめました。基本的に給与所得者に関しては確定申告は任意規定です。一定の場合は確定申告が強制になっていますし、転勤先での年末調整により年間の所得税額の算定が可能な場合は確定申告をする必要がないと覚えてください。
転職の場合 | 確定申告 | 年末調整 |
年の途中で転職し、源泉徴収票を転職先の職場に提出した | しなくてよい | 転職先で行われる |
年の途中で転職し、源泉徴収票を転職先の職場に提出していない | 提出する方がよい | できない |
年の途中で退職し、年末段階で転職していない | 提出する方がよい | できない |
年の途中で退職し、年間の給与・賞与の総額が103万円未満 | 所得税が天引きされていれば提出する方がよい | できない |
1月から転職先の職場で働き始めたものの、前職での昨年12月分が1月になって支給された | しなくてよい | 転職先で行われる |
転職の際に退職金を受け取ったが「退職所得の受給に関する申告書」を受け取っていない | 提出する方がよい | できない |
【その他の場合】
給与所得が2,000万円を超える場合 | しなければならない | できない |
給与・賞与以外の副収入が20万円を超える場合 | しなければならない | 給与・賞与部分のみ年末調整される |
医療費の負担が10万円を超える場合(保険給付があった場合はその分を控除した額) ※例外は上述 | するほうがよい | 給与・賞与部分のみ年末調整される |
年末調整の際に保険料控除等の提出を忘れた | するほうがよい | 会社にもらった資料に基づいて年末調整が行われる |
自分で確定申告する時に必要な書類・手続き

初めて自分で確定申告する場合にはどういった書類が必要か、どういった手続きを行う必要があるか、わからないことだらけで不安が多いと思います。そこで給与所得者の確定申告時に必要な書類や手続きについて解説いたします。
確定申告に必要な書類
主だったものとして以下のようなものが挙げられます。場合によって追加で書類が必要なケースもありますので、判断が難しい場合にはとりあえず持っていくことをお勧めします。
- 確定申告書(A・B様式どちらでも可能)
- 源泉徴収票(2か所以上からもらっている場合はすべて)
- 扶養控除等申告書
- 社会保険料(国民年金保険料、国民健康保険料、介護保険料等)控除証明書
- 納税者のマイナンバーカード等の身分証明書
- 扶養親族のマイナンバーカード等
- 印鑑
困った際には1月下旬から2月近くになると、公民館やコミュニティセンターなどで行われる確定申告相談会、所轄税務署に出向いて相談されることお勧めします。電話でもご質問できますが、初心者の方だと電話だけではうまく解決できない場合が多いです。
ちなみにですが、税務署の場合は2月に入ると途端に込みだしますので税務署の方がうまく対応してくれないことがあります。1月の場合はまだ税務署も来客が少なくて閑散としていますので、その時期に行かれると、比較的丁寧にご回答していただける傾向が強いです。

確定申告の手続き方法
確定申告の手続きを行う方法としては以下の4つがあります。
- 税務署に持参
- 税務署に郵送(返信用封筒に必要金額の切手を貼付しておくことを勧めます)
- 電子申請(国税庁ホームページ)
- 申告書を作成して持参(国税庁ホームページ)
初めて確定申告をされるには、国税庁ホームページで申告書を作成して税務署へ持参されることをお勧めします。確定申告書の入力だけをパソコンで行ってプリンターで印刷し、必要書類とともに持参すれば確定申告は終了です。この方法であれば、画面の説明に沿って簡単に入力でき、事前準備などの必要もありません。
【画像付き】自分で確定申告をする方法
確定申告をしたことのない人には少し緊張する手続きかもしれません。手続きのミスがあった場合には秋ぐらいに確定申告の内容について電話で質問されることもあります。
ミスのないように慎重にやらなければならないのですが、どうやればいいのか解説します。
確定申告書を実際に作成してみましょう
確定申告書を作成するにあたっては、会社からもらう源泉徴収票(場合によっては前職の源泉徴収票も)、支払先の保険会社から送られてくる保険料控除証明書、その他公的機関から送られてくる社会保険料控除証明書などの必要な書類は事前に準備しておきます。
実際には手書きで申告する、税理士事務所にすべて依頼する、e-Tax、確定申告書等作成コーナーで作成したものを印刷して税務署へ持参(もしくは郵送)と確定申告の仕方はあります。
ただし、給与による収入以外にないのなら、お金をかけてまで申告手続きをするほどでもないですし、手計算や初めてe-Taxで申告するとなるとかなりの時間がかかります。そこで以下では国税庁の確定申告書等作成コーナーを活用して申告する方法をお伝えします。
手順
①国税庁のHPより「確定申告書等作成コーナー」を開き、「作成開始」を選択

②e-Taxと書面提出の選択画面が出てくるので、「書面提出」を選択

③「ご利用のための事前確認を行います」ということでパソコンが推奨環境を満たしているか確認します。満たしていれば右下の黄色タブ「利用規約に同意して次へ」を選択

④どの年度の申告書等の作成か選択できますので、「最新年度(具体的に何年度と記載されている)の申告書等の作成」タブを選択
⑤税目や決算書等の作成が選べますので、今回の場合は「所得税」を選択

⑥所得の種類により申告書類の提出が異なりますので、今回の場合は「給与・年金の方」を選択

⑦事前に準備しておく書類が確認できますので、確定申告書の入力の前にお手元にそれらの書類を準備します

⑧後は基本的に画面の指示に従って数値や文字を入力すれば確定申告を作成することができます。
※注意点
1.各種控除の額については証明書の数値をもとに入力します。そうすることで、年間の収入総額から申告すべき所得税額まで計算することができます。生命保険料控除や地震保険料控除、介護保険料控除については証明書の金額をそのまま入力してください。所得控除の額はソフトで計算されます。 2.社会保険料等控除ですが、会社で天引きされた分については源泉徴収票の入力ページにおいて源泉徴収票に記載されたとおりに入力してください。 ただし、天引きされた社会保険料等以外に親の介護保険料を負担したとか、自分の個人確定拠出年金(iDeCo)を支払った場合など、別途にその金額を記載するページがあります。送付されてくる証明書を確認しながら納付先と、ご自身が負担した金額を正確に記入してください。 この部分は不慣れな方にとっては少しわかりづらいところです。記載漏れのないように気を付けてください。 |
完成したらそれを印刷し、「確定申告に必要な書類等」を持参のうえで税務署の受付に提出します。控えに受領印をいただいたら確定申告は終了です。
確定申告の期間

2月16日から3月15日までが基本。申告漏れした場合は後が大変
その年の分の確定申告は翌年2月16日から3月15日が基本です。開始日や締め切り日が土・日の場合は次の日にずれ込みます。その間で必ず提出をしましょう。1日でも遅れた、もしくは完全に忘れていた場合はいろいろとペナルティの対象になりますので気をつけましょう。
遅延したことによる罰則
ペナルティについては次のようなものがあります。
無申告加算税
これは期限内に確定申告書を提出していないことに対するペナルティであり、本来納付すべき税額に対して最高その20%が課せられます。1日遅れただけでも原則適用対象です。ただし、以下の要件をすべて満たしている場合には無申告加算税が課されません。
- 期限後1か月以内に自主的に期限後申告が行われた者
- 期限内申告を行おうとする認められる一定の要件に該当する者
- 直近5年にないに期限後申告がない者
- 確定申告の期限内(口座振替の場合は期限後申告をした日)までに所得税の納付は済ませている者
延滞税
これは納税が遅れたことに対するペナルティです。1日遅れるごとにより納付額が増えていきます。計算式が少々複雑ですが、最高の税率は年14.6%とされています。納期限の翌日から所得税を完納した日までの日割り計算です。
確定申告とは

ここまで確定申告の対象となる人や手続きなどの流れについて解説しました。年末調整との関係で少しだけ触れましたが、確定申告は何のために行うのか復習をしましょう。
確定申告とは、納税者自身が行う所得税の確定業務
会社勤めをされている人が基本的に税務署に出向くようなことをしないのは、会社が年間の所得税を確定させる年末調整を行っているからです。したがって、会社勤めの人は基本的に確定申告をする必要はありません。ただ、先述した場合にのように勤務先の会社だけでは給与等の収入総額や年間で納付すべき所得税額が確定しない場合には、翌年に確定申告することで1年間で納付すべき所得税を確定させる確定申告を行います。
よくある確定申告に関するQ&A

失業中に失業保険(基本手当)を受給していたら?
退職されてしばらく無職期間が続くとハローワークから基本手当という名目で失業保険が振り込まれることがあります。この分はいったい収入としてカウントしてよいのかどうか気になるところですのでお答えします。
失業保険が支給される理由は、失業中の生活を維持する目的にあります。そのため失業保険は所得税の計算上非課税扱いになるため、その受給有無は確定申告の必要性に影響を与えません。

失業中に社会保険を支払っていた場合は?
退職すると会社が属していた健康保険や厚生年金から、国民健康保険、国民年金に切り替える必要があります。失業期間中に国民年金や国民健康保険を個人で支払った場合について、その支払いの証明書を保管する必要があります。
年末調整を行う際は、その証明書を提出する事により、社会保険料控除を受ける事ができます。自身で確定申告を行う場合も同様に社会保険料控除を受けられますので、国民年金や国民健康保険への加入期間がある人はその支払いの証明書を保管する必要があります。

退職金をもらった場合は確定申告が必要?
退職金は給与所得と計算を別にするため、退職所得として取り扱われます。退職金にかかる所得税の計算は、退職の際に会社から受け取った退職金、永年勤続慰労金、その他退職に付随するものの額と、退職期間が把握できれば退職所得にかかる所得税は計算できます。
したがって「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出すれば、源泉徴収によって納税手続きは完了となります。ほとんどのケースがこのように源泉徴収にて課税関係は終了するため、退職所得の取扱いについては、基本的には確定申告の必要がありません。
ただ例外としては、外国企業等に勤めていた場合等、源泉徴収がされないケースがあります。源泉徴収されていない退職金については、日本で申告義務が生じます。自身の退職金が源泉徴収をされているかどうかを確認し、源泉徴収がされていないケースは確定申告を行う必要がある。また、「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合においても、確定申告が必要となります。
この点については中国など、外国企業の所在国により退職金に課税される場合があります。二重課税の問題については会社の顧問税理士によく確認しましょう。

確定申告書とセットになっている住民税申告書とは?
確定申告書を取り寄せた際にセットになっている住民税申告書ですが、この申告書もあわせて提出するのか迷われる方も多いと思います。こちらは確定申告書よりはわかりやすいので簡潔に解説します。
原則、提出の必要性はない
基本的には提出する必要はありません。理由は年末調整もしくは確定申告書を提出すると、そのデータが納税者の居住地の市区町村へ送付されるためです。それに基づいて住民税額が計算されます。
下記条件に当てはまる場合は提出が必要
かなり条件が限定されます。ただ、以下のような方は住民税が少なる場合が多いために、市町村税の申告書を「市区町村」に提出しましょう。その要件は以下の通りです。
所得税の年末調整や確定申告を行っていない場合で、
- 課税証明や非課税証明が必要である者
- 配偶者の所得が98万円以上103万円以下である者
- 20万円以下の給与所得以外の所得がある者
- 退職により年末調整をしていない給与所得者
- 年金受給者の確定申告不要制度を利用した者であって、年金以外の所得があった者
所得税の年末調整や確定申告がなされなかったために、市区町村の側ではすぐに課税所得などが把握できません。
特に配偶者の所得が98万円以上103万円以下である場合、所得税は0円で、所得税法上の配偶者控除の要件に該当します。ただし、課税所得が98万円以上である場合には住民税の所得割が発生することはあり得ます。
申告を忘れると秋ごろに住民税に関するお問い合わせもしくは住民税の納付書が届くことがあります。この点はご存知ではない方も多いと思いますので、ぜひ知っておいてください。
まとめ
会社勤めされていた方がもし確定申告をやらざるを得なくなった場合にはわからないことが多すぎて、いったい何から手をつければいいのかさっぱりわからない方もいらっしゃると思います。税理士に頼むことも可能ですが、税理士にお金を払ってまでやるほど難しい内容でもありません。
こちらでは、そもそも確定申告の対象者なのか、もし確定申告が必要ならどんな資料が必要で、どのような手続きが必要かほぼもれなく記載しました。確定申告の必要がある場合にはぜひこちらの記事を参考にして、ご自身で頑張って確定申告してみてください。

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