皆さんは「辛辣」という言葉にどのようなイメージを持っていますか?
「辛い(からい・つらい)」という字が入っていることもあり、怖い・厳しい・痛そうなどといったややマイナスなイメージが多いのではないかと思います。
「辣」の字はあまり単体で見ることはありませんが、こちらも「からい」と読むことができ、部首は「辛」です。
「辣」を分解すると「辛い」が「束」になっているので、やはりこの漢字に対してもなんとなく怖い・痛そうなイメージを持つ人が多いでしょう。
しかしながら、「辛辣」という言葉の意味を掘り下げていくと、決してマイナスなイメージばかりではないことがわかってきます。
辛辣とは本当はどういう意味なのでしょうか?対義語や類義語、英語表現とともに掘り下げていきましょう!
辛辣の意味・使い方
【読み】しんらつ
【意味】
- 言葉や表現が非常に手厳しいこと
- 味がきわめて辛いこと
①言葉や表現が非常に手厳しいこと
「辛辣」の一つ目の意味に「言葉や表現が非常に手厳しいこと」という意味があり、現代ではほとんどすべてがこの意味で使われています。
この意味の「辛辣」を正しく理解するために注意すべき部分は、説明文の中の「言葉や表現」です。
なぜこの部分に注意するかというと、「感情」には言及していないからです。「辛辣」という言葉は「言葉や表現」の仕方を形容しているだけであり、感情的なものまでは指していません。
時々意味をはき違えている人がいるのですが、「辛辣」という言葉の中に「悪意」や「苦情」のような負の感情は含みません。
「辛辣」はあくまでも「言葉や表現」が手厳しいこと・容赦ないことを指しているのであり、「感情」に関しては中立な言葉です。
場合によっては否定的な意見などの形容にも「辛辣」が使われますが、それは対象に対し否定的な考えをまっすぐに・はっきりと伝えるものだからです。
根拠のないものや感情をむき出しにしているものは「辛辣」とは言えません。
尚、表現は態度なども含まれます。「辛辣」は言葉の選び方や態度がオブラートに包まれておらず、率直なイメージです。
「内容に悪意はないが、言葉や表現がストレートであるがゆえに相手はショックを受けるかもしれない」というのが「辛辣」が表す一つ目の意味です。
例文
- 小説のコンクールに応募したら、審査員から辛辣な批評が返ってきた。
- 自信のあった企画書に、同僚から辛辣な意見が寄せられた。
- 取引先に商談で辛辣な態度を取られて落ち込んだ。
- 亡くなった専務は、誰に対しても辛辣だった。
以上のように、「辛辣」という言葉は形容動詞としても名詞としても使います。よくある組み合わせは「辛辣」と「批判」あるいは「批評」、「辛辣」と「意見」です。
「批判」「批評」「意見」は元来どれも感情的には中立なものです。このことからも、「辛辣」は「言葉や表現」が手厳しいことを指すのであって、「感情」には言及しないことがわかるでしょう。
②味がきわめて辛いこと
「辛辣」の二つ目の意味に「味がきわめて辛いこと」があります。しかし、現代ではほとんどこの意味で「辛辣」を使うことはありません。
冒頭でも述べたように、「辛」も「辣」も「からい」と読むことができます。また、「辛」には日本特有の意味で香辛料の「からし」を表します。ラー油もすべて漢字表記にすると「辣油」で「辣」の字を使います。
漢字の元の意味をたどると「味がきわめて辛い」という意味になるのです。日本語ではこの意味で使われることはほとんどありませんが、中国語では「辛辣」と書いて「辛い」という意味を表します。もちろん中国語でも①の意味も持っています。
例文
- この料理の味は辛辣だ。
- それだけ辛辣な料理をよく食べれるな。
- 辛辣な食べ物は嫌いだ。
- 薬を飲む前は辛辣な食べ物を避けてください。
正直、これらの例文を日本で使うことはないと思われます。大抵①の意味に間違って認識されてしまいます。
しかし、「辛辣」が辛い味を指すことを覚えていると、中国に行った時に役に立つかもしれません。
きっと「辛辣」と書かれているお店の料理は辛いでしょうから。
「辣」が使われる熟語
「辣」という漢字は普段あまり目にしませんが、意外と身近な食べ物の漢字表記に使われていることがあります。
- 悪辣
- 辣腕
- 辣韭
- 辣油
「悪辣」の意味
「やり方、質が悪くあくどいこと」という意味を持つ熟語です。「犯人は悪辣な手段を用いて犯行に及んだ」などと使います。
名詞としても形容動詞としても使えます。
「悪辣」を用いる四字熟語には「悪辣無比」「悪辣非道」があります。「悪辣無比」は「比べるものがないくらいひどい事をやってのけるさま」、「悪辣非道」は「人の道理から外れるくらいあくどいことを行う」という意味を持ちます。
「辣腕」の意味
「物事をてきぱきと処理する能力があること。凄腕。」という意味を持つ熟語です。「辣腕な新社長のおかげで会社の業績が回復した」のように使います。
類語には「敏腕」「切れ者」があげられます。「敏腕」には「物事をすばやくてきぱきと、しかも巧みにやること。うできき。」、「切れ者」には「頭の回転がすばやく、優れた手腕を持つ者。やり手。敏腕家。」という意味があります。微妙なニュアンスの違いがあるので、状況によって使い分けるとよいでしょう。
「辣韭」の意味
「辣韭」と書いて「ラッキョウ」と読みます。甘酢に漬けたものはカレーのお供の定番です。中国、ヒマラヤ地方が原産のネギ属の野菜です。「辣韮」とも書きます。
なぜらっきょうを「辛辣な味の韮」と書くのかというと、私たちがラッキョウとして食べている、葉の根元が変化した「りん茎」という部分は辛み成分を持っており、また、ラッキョウの葉がニラに似ているからです。
「辣油」の意味
上記でも紹介しましたが「辣油」と書いて「ラーゆ」と読みます。中国料理でよく使われる調味料です。熱を伴うピリピリとした辛さであるため「辣」の字が使われています。
ちなみに、中国料理では辛みは大きく「麻」と「辣」に分類され、「麻」は痺れを伴う辛さを表しています。「麻」は山椒、「辣」は唐辛子を思い浮かべるとよいでしょう。ラー油は主に唐辛子から作られるので「辣」です。
「辛辣」と「毒舌」はどんな違いあるの?
言葉や表現がストレート、要はズケズケとものをいうイメージとしては「辛辣」以外にも「毒舌」が思い浮かぶのではないでしょうか。テレビなどのメディアでもよく使われますよね。とはいえ、何が違うのかすぐには答えられない人が大半なのではないかと思います。
「毒舌」の意味は「手厳しい皮肉や悪口。辛辣な皮肉。」という意味です。「皮肉」は「相手の欠点や弱点を意地悪く遠回しに非難するさま」を指します。「辛辣」は感情に対し偏りがなく中立でしたが、「毒舌」の場合はわざと負の感情を混ぜた状態でストレートに表現するものが多いです。
また、「毒舌」は「舌」という漢字が使われることからも分かるように、言葉を使ってストレートに表現することを指します。辛辣のように態度までは含みません。「辛辣な態度」という表現は存在しますが「毒舌な態度」という表現は存在しません。
感情を含まず、また言葉のみならず態度も併せて率直な表現をするなら「辛辣」、わざと悪意を持って意地悪に、言葉のみで率直に表現する場合は「毒舌」です。
「辛辣」の類義語・対義語

「辛辣」には、次の類語・対義語があります。
- シビア
- 痛烈
- 冷厳
- 歯に衣着せぬ
- 婉曲
- 穏やか
- 情け深い
類語①「シビア」
「シビア」とは「要求・条件が過酷であるさま。また、批評・言動などが容赦なく、手厳しいさま。シビヤ。」という意味をもつ言葉です。「辛辣」とは「批評や言動が容赦なく、手厳しさま」という点が共通です。英語では「severe」と綴ります。
「シビア」は形容動詞なので、「辛辣」のように名詞では使えません。名詞は「シビリティー」ですが、カタカナ言葉として使われることはほとんどありません
- シビアな世の中になったものだ。
- お金にシビアな彼女は毎日自炊する。
- 合コンでシビアに相手を観察する。
類語②「痛烈」
「痛烈」とは「非常に激しく攻め立てるさま。手厳しいさま。」という意味を持つ言葉です。「辛辣」とは「手厳しいさま」という点が共通しています。
感情に対し中立な「辛辣」とは異なり、「痛烈」は「非常に激しく攻め立てる」とあるので、苛立ちや怒りのニュアンスが感じられます。ヒステリックにものを言っているようなイメージです。状況に応じて使い分けましょう。
また、「痛烈」は形容動詞であり、「辛辣」のように名詞として用いることはできません。
- その番組は視聴者から痛烈な批判を浴びた。
- この仕事を完遂できなかったことに自身の力不足を痛烈に感じる。
- 新入生に教師は痛烈な言葉を浴びせた。
類語③「冷厳」
「冷厳」とは「①落ち着いていて、厳格なさま。冷静で厳しいさま。②重大で、冷静にしっかりと見つめなければならないさま。重大で厳しいさま。」の二つの意味を持ちます。「辛辣」と類義なのは①の意味です。
形容動詞であるため、「辛辣」のように名詞では使えません。
- 裁判官は冷厳な態度で有罪を宣告した。(①の意味)
- 冷厳な部長に声をかけるには勇気がいる(①の意味)
- 愛犬が死んだという冷厳な事実を受け入れなくてはならない。(②の意味)
類語④「歯に衣着せぬ」
「歯に衣着せぬ」とは「思っていること、言いたいことを、遠慮会釈なしにずばりと言うこと」を意味することわざです。「衣」は「きぬ」と読みます。「言葉や表現がストレート」で相手の反応を考慮しないという点が「辛辣」と共通しています。
場合によっては「歯に衣着せぬ」が「歯に衣着せず」に変化して用いられますが、意味に変化はありません。「ぬ」「ず」「~ない」など、語尾は変化しますがどれも否定の意味を表すものです。否定形で使いましょう。
- 歯に衣着せぬ物言いをするおばあさん。
- マネージャーは歯に衣着せぬ性格なので、チームの弱点をズバリと言った。
- 評論家は巨匠が相手であっても歯に衣着せずに批評した。
対義語①「婉曲」
「婉曲」とは「遠回しにそれとなく表現するさま」という意味を持つ言葉です。言葉や表現が露骨にならないよう間接的で、角が立たないように穏やかな言葉、態度で表現するときに使います。
文法にも「婉曲」があり、判断・命令・感動などが断定的あるいは直接的になるのを避けて語調を和らげる効果を持つ表現を指します。文語で助動詞の「む」や「めり」が相当します。
- 彼女は婉曲的な表現でそれとなく異を唱えた。
- 婉曲的な言い方をされると真意がわからないよ。
- 婉曲に断る意を伝えなさい。
対義語②「穏やか」
「穏やか」とは、「①静かで無事平穏なさま。②落ち着いていておとなしいさま。③やり方や考え方などが穏当であるさま。」の三つの意味があり、③が「辛辣」の対義語です。波風立てないよう、柔らかな表現を用います。
尚、「穏当」は「①物事に無理がなく理屈にもかなっていること。妥当。②従順でおとなしいこと。」を指します。
- 母親はお金を無駄遣いをする子供に、穏やかにお金の大切さを説いた。
- 先生の話し方は穏やかなので、私に対して否定的な内容でもすんなり耳に入ってくる。
- 父は「家が壊れるかもしれない」と穏やかでないことを言った。
対義語③「情け深い」
「情け深い」とは「①思いやりの気持ちが十分にある。人情味にあふれている。②風流心がある。情趣を解する心が深い。」という二つの意味があり、①が「辛辣」の対義語です。
相手を思いやってはっきりと言わない情け深さは、「辛辣」の持つ率直さとは対照的です。
- 失敗した僕に、情け深い彼はもう一度チャンスをくれた。
- 先生の情け深い取り計らいのおかげで、欠席したテストを受けることができた。
- 情け深い人は人に慕われる。
「辛辣」の英語表現

「痛烈」と「厳しい」の意味で訳されることが多い
「辛辣」という言葉は、英語では「痛烈」「厳しい」といった意味に置き換えて表します。「毒舌」との明確な線引きはされていないので、「毒舌」に関しても同じ単語や熟語を使うことが多いです。
「シビア(severe)」は上記で紹介したので、それ以外の単語・熟語を紹介します。
例文①:「harsh」の英単語
例文②:「sharp」の英単語
「sharp」は「〈人・言葉などが〉きつい、痛烈な、辛辣な」という意味で使われます。「sharp tongue」でも「辛辣・毒舌」を意味します。「辣」の字に「針や刃物で刺すようにからい」という意味があるので、「sharp」の「鋭い・鋭利な」という意味に合致します。
例文:She has a sharp tongue.
訳:彼女は辛辣な言葉遣いをする・毒舌家である。
例文③:「bitter」の英単語
「bitter」には「〈言動・議論などが〉激しい、辛辣な」という意味があります。「bitter irony」や「bitter words」で「痛烈な皮肉」や「冷酷な言葉・毒舌」という意味を持ちます。
例文:She told her brother a bitter word.
訳:彼女は兄弟に辛辣な言葉を言った。
まとめ
例文:The harsh words mean trust and expectation to you.
訳:辛辣な言葉はあなたへの信頼と期待を意味する。
なんとなく怖そうなイメージのある「辛辣」という言葉について深く掘り下げてみました。「辛辣」は決してマイナスの意味ばかりで使われる言葉ではありません。良い意味でも悪い意味でも「率直な言葉」という意味を頭の片隅に置いておきましょう。
- 「辛辣(しんらつ)」①言葉や表現が非常に手厳しいこと②味がきわめて辛いこと
- 類語は「シビア」「痛烈」「冷厳」
- 対義語は「婉曲」「穏やか」「情け深い」
- 英語表現は「harsh」「sharp」「bitter」
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