当該は、比較的誤用の多い言葉です。誤用をまねいてしまうような似た言葉、該当があるので、混乱して使っている方が時々見られます。
商談などの契約が関係するビジネス関連書類の中では、よく見かける言葉です。メールのやりとりの中でも使う頻度が高いことがあります。
社会人としての言語能力を問われる言葉の一つです。正しく使えるように、使い方・意味を正確に把握しましょう。
当該の意味・使い方
【読み】とうがい
【意味】
- 先に述べた事柄に関係すること、そのものであること
- その担当であること
①先に述べた事柄に関係すること、そのものであること
先に述べた事柄やものを指すときに、「その○○」ということがあります。この時に、当該を使うとかしこまった、きちんとした印象を与える文章になります。
公文書でも使われる意味ですので、ぜひとも自分でも使えるようになりましょう。
例文
- 我が社の商品Aに欠陥が見つかった。当該商品については回収する。
- この保険は40歳から加入が可能であり、当該年齢の方に御案内しています。
- ○○発△△行きは採算が取れていない路線だ。当該路線は廃止するべきである。
- ○○地方に警報が出ています。当該地域のお住まいの方はご注意下さい。
先行する文章内にある言葉や事柄を示すときに使うことがわかっていただけると思います。
ただし、話し言葉で使われるのはよほどかしこまったケースに限られます。話し言葉では、「その○○」と表現されることが多いと思います。
ただし、かしこまったところでのプレゼンなどでは、「当該」を使った方が無難です。
②その担当であること
担当である人間、部署などを表現するときに使われます。
例文
- その情報はアクセス権限のある部署でないと見ることができない。当該職員を呼び出そう。
- 査察部に不正経理の報告があった。当該部署によって調査を行う。
- 営業に関する秘密事項であり、当該課員にのみ、その情報が開示された。
- 被告を釈放した場合、当該被告による罪証隠滅行為が考えられる。
かなりかしこまった雰囲気が感じられるかと思います。特に裁判所からの文書や、弁護士が作る文章などは、当該があちらこちらに使われています。
当該が使われる熟語
当該は連体詞で、他の体言と結合して使われる事があります。これといった熟語はありませんが、体言と結合することでいろいろな状況で使うことのできる言葉です。
ただ、当該を使った文章の前を正確に把握しておかないと混乱することもありますので、ここではその混乱を防ぐための知識を解説するための言葉を紹介します。
- 当該職員
- 当該部署
- 当該車両
- 当該被告人
当該職員の意味
例えば「不正をした職員がいる、当該職員は・・・」と続く場合は職員そのものを指します。
一方で、「電源トラブルだ、当該職員を・・・」となる場合は、電源を担当する職員を指します。
当該部署の意味
これも、当該職員と同様に、部署そのものを指す場合と、その担当部署を指す場合があります。
いずれにしても、特定のある部署を指すのには変わりはないのですが、使われている流れの違いはすぐにわかるようにしておきましょう。
当該車両の意味
ある車両を指す場合当該車両と言いますが、これも文章の流れで意味が違ってくることがあります。
「10トンの物資つり上げが必要です。当該車両の手配お願いします」の場合、当該が指すのは特定の車両ではなく、特定の能力を持った車両のことになります。
つまりこの場合は「つり上げ担当」の車両という意味になりますね。
当該被告人の意味
この言葉をわざわざ挙げたのは、当該被告人という言葉を使う場合、その人が被告とされている裁判が必ず示されているということです。
被告人は裁判があって初めて被告人になります。
当該、という言葉を使うときには、必ずどの裁判の被告人かを示すために、前もって事件を示す文章が必要になります。
当該と該当はどんな違いあるの?
当該に似た言葉で該当という言葉があります。この存在が意味の混乱を招く要因です。
当該と該当、同じ漢字の順番を変えただけの言葉で、似てはいるのですが使う時の意味が異なります。
当該は、先の述べた事柄に関連する、またはそのものであることを意味します。一方で、該当は、一定の条件、ケースなどに「当てはまること」を意味します。
例えば、「ひき逃げ事件発生、当該車両は・・・・・」の場合は、ひき逃げをした車両そのものを指します。そのため、当該車両は一台です。
そして「ひき逃げ事件発生、該当車両は・・・・」の場合は、ひき逃げをした所領の特徴に合致する(色、車種など)を指します。ですので、該当車両は条件に一致すれば何台もあります。
この2つはきちんと使い分けましょう。
当該の類義語・対義語
当該の類義語は、文章の中での使い方によっていくつも存在します。中には、該当の類義語であるものもあります。
ここでは、当該の類義語の典型となる言葉を4つ挙げます。
- 関する
- その
- 担当する
- 件の
類語①「関する」
関する、は様々なシチュエーションで使われるのですが、当該の類義語としての「関する」は、何に関しているかが明確になっています。下の例文ですと、「彼の行動」「昨日のトラブル」「この事件」と、関するの対象が明確になっています。- 彼の行動に関する話をした。
- 昨日のトラブルに関する対策を話しあった。
- この事件に関する内容について、個人情報に関することにはお答えできません。
類語②「その」
「その」は話し言葉の中での類義語です。後ほど解説しますが、英語の「the」に近いと考えて下さい。- 何らかの理由で売り上げが落ちている。その原因を探らなければならない。
- 君の意見はわかった、その話はいったん終わりにしないか?
- 株価が大きく下がる、その場合はどうしますか?
類語③「担当する」
この場合は使われる状況が限定されます。しかし、使われる頻度は高いので類義語として挙げました。- 御意見を承りました。担当する者から連絡いたします。
- 地域の安全は、その地域を担当する交番が重要である。
- 年金については、担当する職員を呼びますのでお待ち下さい。
類語④「件の」
- 件の問題についてだが、解決策はできているかね?
- ハラスメントについてお話ししたことがあるでしょう?彼が件の上司です。
- 件の欠陥商品については、すぐに回収の手続きに入る。
当該に対義語はない
「その」というように、事柄を限定する言葉ですので、反対の言葉はありません。
「ひき逃げ事件発生、当該車両は北に向かって逃走」という文章において、当該の逆の言葉があったとした時に、その言葉を使うとどうなるか?ですが・・・。
文章になりませんよね。ですので、当該の対義語はない、ということになります。
当該の英語表現
当該に最もマッチした英語は、「the」ではないでしょうか。
おそらくは、theが最も汎用性の高い、当該の英語表現です。しかし、英語では状況によっていくつかの当該に当てはまる単語があります。
当該と該当の意味で訳されることが多い
英語では、当該と該当が同じ単語で表現される場合があります。代表的な単語は、applicableです。この単語は、当該の場合でも、該当の場合でも使うことができます。
担当する、という意味では、authoritiesがあります。この単語は、「当局」という意味で使われます。つまりは、担当する部署、ということです。
そして冒頭に述べた、theです。まずはtheの例文から挙げましょう。
例文①:theを使った例文
He has a child, a boy. The boy is ten years old.(彼には子供が一人、男のがいます。その男の子は10歳です。)
She has a cat. The cat is cute.(彼女は猫を飼っています。その猫は可愛いです。)
Theは、一度出てきた名詞、話には出てきていないが特定できる名詞、太陽などただ一つのものを表す名詞に付けますが、当該する、という意味ですと、一度出てきた名詞に使うケースが当てはまります。
例文②:Applicableを使った例文
Your protocol is not applicable and does not work well in this case.(あなたの方法はこのケースでは適用できず、うまくいきません。)
The method is applicable to this situation.(そのやり方はこのケースに当てはまるよ。)
ちょっとわかりにくいのですが、当該、というよりも、その条件に適合する、一致する、つまり該当に近い意味になりますね。
例文③:Authoritiesの例文
We went to the government office quarter to complain to the authorities.(私たちは当局に文句を言うために、官庁街に行きました。)
This road is managed by military authorities.(この道路は軍当局によって管理されています。)
Authoritiesの場合は、「当局」です。
つまり、担当部署、管轄部署を表します。この単語には「権威」という意味もありますので、当該というよりも、その権限を持つものというニュアンスが強い単語です。
まとめ
該当という言葉はよく使われます。しかし当該は、あまり目にすることはないかもしれません。だからこそ正確に使うと効果があります。
当該と該当の意味の違いを強調して解説してきましたが、最後に大きな違いの一つを解説します。
該当の場合、「該当する」という動詞形で使われる事もありますが、当該の場合は「当該する」と動詞形で使うことはできません。ここは必ず覚えておきましょう。