拘泥という言葉は、本、新聞などを見かけますが、会話で使われる事はそれほど多くありません。しかし、フォーマルな場、会議などでは時折耳にする言葉です。
良い意味では全く使われません。悪い意味でのみ使われる言葉です。物事にとらわれること意味する「拘」という字と、泥でできています。
泥という字は、土の泥を表す文字ですが、物事が進まないさまを表すこともあります。
この2つで作られた拘泥という言葉の意味は何となく良いことではないと想像できますね。
拘泥の意味・使い方
【読み】こうでい
【意味】
- 必要以上にこだわること
- 執着すること、または執着して融通がきかないこと
- 一つのことにとらわれ、周りが見えなくなること
必要以上にこだわること
そこまでこだわる必要がないのに、こだわってしまうことを意味します。
自分の考え方にとらわれているのか、細かいことを気にしすぎるのか、いろいろと理由はありますが、とにかく必要以上にこだわってしまう時に使います。
例文
- 書類の形式に拘泥していて、内容の検討をまだ行っていない。
- 彼の意見に拘泥して、議論が深みにはまってしまった。
- 彼は細かいことには拘泥せずにプランを練り上げた。
- 人の物言いに拘泥せず、聞き流せるところは聞き流しなさい。
そこまでこだわらなくても、物事は前に進むし解決するのに、なかなか認めようとしなかったり、諦めなかったりする感じです。
ちょっと粘着質の雰囲気を想像していただければわかりやすいと思います。周囲から、「それはともかく前に進もう」と声をかけられそうな雰囲気がこの意味です。
執着すること、または執着して融通がきかないこと
人それぞれにこだわりというものは多かれ少なかれあるものです。しかし、その点にばかり気にして、周りが見えていないと物事が進みません。
そんな時に拘泥は、執着しているさまを指して使われます。
例文
- 部長は陸路輸送に拘泥しているので、取引先との交渉が大変だ。
- 彼を中心に据えることに拘泥して、適材適所になっていない。
- 社長は売り上げよりも、ライバル社に勝つことに拘泥している。
- 軽量化に拘泥するあまり、強度をだいぶ犠牲にしている。
ビジネスシーンでよく使われる意味です。
一つのことにこだわって、なかなか認めてくれない人っていますよね。その人はまさに、「拘泥している」となるわけです。
一つのことにとらわれ、周りが見えなくなること
目標があることはいいんですが、そればかりで周りへの影響を全く考えない、その目標以外は認めない、というシチュエーションで使われます。
例文
- 勝ちに拘泥しすぎて、若手の選手が育たない。
- 東大合格に拘泥した結果、多くの年月を浪人として過ごした。
- 選手をつぶすのは、勝利に拘泥する監督が多い。
- このプロジェクトに拘泥した彼は、他の仕事をおろそかにした。
悪い意味で、一つのことに夢中になる、またはこだわってしまって周りが見えなくなる意味です。
確信犯的にやっているときでも、批判するときには拘泥という言葉が使われます。
拘泥と忸怩はどんな違いあるの?
拘泥と字の雰囲気が似ており、意味もよくない意味を表すので、忸怩という言葉はうっかり読み間違える可能性がある言葉です。
忸怩は「じくじ」と読み、深く恥ずかしがること、恥じ入ることを意味します。
「忸怩たる思い」という使い方がよくされますが、これは「深く恥じ入り反省する」ということです。
拘泥と忸怩はセットで使えます。
「あの時には細かいことに拘泥しすぎて、今では忸怩たる思いだ。」→ あの時は細かいことにとらわれすぎて、今ではそのことについて深く恥じ入り、反省している。」と使うことができます。
拘泥の類義語・対義語
拘泥の類義語はいくつかあり、それぞれで微妙にニュアンスが違います。
拘泥という言葉は、やや広い意味で使われる事が多いのですが、類義語は使用する場所、状況が限定される言葉が多いので、意味をきちんと把握しておく事が必要です。
- 粘着
- 執着
- 固執
類語①「粘着」
粘着(ねんちゃく)は、最近よく使われる言葉ですね。ここでは、粘着テープなどの粘着とは違った、人間の心理・行動についての粘着について解説します。
粘着は、執念深くこだわることを意味しています。
- 彼は粘着気質だから気をつけた方がいいよ。
- 粘着的な行動をしたために、彼は注意を受けた。
- 課長は会議で粘着的にプランを批判した。
類語②「執着」
執着は2つの読み方があります。
「しゅうちゃく」の場合は、一つのことに心をとらわれることです。これが一般に使われる読みと意味です。
もう一つは、「しゅうじゃく」という読み方です。これは仏教用語で、一つのことにこだわり、修行の妨げになる事を言います。
- 彼は出世に執着している。
- 金に執着するあまり、友人を失った。
- それに執着すると全体像が見えなくなるよ。
類語③「固執」
固執は、「こしゅう」と「こしつ」の2つの読み方があります。「こしゅう」が本来の読み方で、「こしつ」は慣例的な読み方です。正確に読みたいのであれば、「こしゅう」を使った方がよいです。
意味は、自分の意見にこだわり、態度・考えを変えないことです。良い意味でも悪い意味でも使われる言葉ですが、あまり良い意味で取ってくれる人は多くないかもしれません。
- 自説に固執し、大きな発見のチャンスを逃した。
- 自説に固執した結果、大きな発見を成し遂げた。
- 一つの方法に固執することは、大きな失敗の原因にもなるし、成功の鍵にもなる。
対義語①「諦観」
諦観(ていかん)は、「諦める」という字が入っています。意味は、本質をはっきりと見極めること、または悟って諦めることです。
諦める、という意味ですが、ただ諦めるのではなく、悟って諦める、つまり悟りが必要です。諦める理由を受け入れてこそ、諦観が成立します。
- 諦観の境地に達し、なるようになると考えた。
- 彼の諦観的な態度は、彼が冷静な性格であることを印象づける。
- 人生を諦観し、お金に執着するのはやめた。
対義語②「潔い」
潔い(いさぎよい)は、よく使われる言葉です。思い切りがよかったり、未練がましくないさまを表す言葉です。
一つのことに拘泥せず、「それはそれとして、やろう!」などと言うと、「潔い」という言葉がぴったりの態度に見えます。
- 潔く不正を認めた。
- 彼の謝罪が潔かったために、世論は彼の味方をした。
- 社長は潔く、その職を辞した。
対義語③「没却」
没却(ぼっきゃく)は、仏教用語であり、我々が一般的に使うことが非常に少ない言葉です。
意味としては、関心や考えを忘れ去って無視することです。悟りを開いた状態、と言えるかもしれませんね。ただし、悪い意味にも使われる事があります。
- 自我を没却すると真理が見えてくる。
- 独創性の没却により、この小説はつまらないものとなった。
- 法律の言葉に拘泥し、その精神を没却している。
拘泥の英語表現
英語である日本語を複数の英単語で言い換えると、日本語とは異なった意味の違い、ニュアンスの違いに戸惑うことがあります。
拘泥はいくつかの英単語で表現することが可能ですが、大雑把なニュアンスの分け方ですので、固執という訳の単語が固執という意味で使われたりすることもあります。
固執と執着、こだわるの意味で訳されることが多い
英単語で表現されることもありますが、慣用句(イディオム)で表現されることもあります。
また、否定文で使うときのみの独特な表現もあります。この表現方法の代表的なものは、「not care」、つまり「気にしない」という表現です。
「拘泥しない」=「気にしない」というこの表現は、覚えていて損はありません。
例文①:固執の英単語
He can’t stick to whatever he does. (彼は何をやっても三日坊主だ。)
これは、「彼は何をやっても固執できない」=「三日坊主」という表現です。
Stick to your plan. (計画を変えるな。)
「あなたの計画に固執しなさい」=「計画を変えるな」という表現です。
例文②:執着の英単語
You lack tenacity of purpose. (あなたは執着心がありませんね。)
I am not attached to understanding each other.(私は相互理解に執着がありません)
I don’t stick to the results.(私はその結果に執着しない。)
例文③:こだわるの英単語
He adhered to his principle. (彼は自分の主義にこだわっていた。)
He sticked to his principle. この文章でもほぼ同じ意味になります。
I adhere to your rule.(私はあくまであなたのルールにこだわる。)
どの単語も、「拘泥」という意味で使うことができそうです。ただ、「こういうケースではstick」「ここではadhere」という、教科書的ではない不文律的な言い分けがあるかもしれません。
まとめ
拘泥は、話し言葉で使われる事が少ない言葉です。使われるとすれば、フォーマルな場、会議などで使われます。
拘泥する、という言葉で言動を表現するとき、それはほぼ悪い意味で使われます。受け取り側は悪い意味で意味を取りますので使うときには注意しましょう。逆に、拘泥しない、と表現されるときには良い意味で使われます。
そして、英語で表現するときには、似た表現にどんな単語を使われているかを調べてから使用した方が無難です。
特にstick、stickyという単語は、「あいつは気難しい」という意味になったり、「めっちゃヤバイ(この表現はイギリスのみ)」という表現で使われたりします。