この記事では、「罷免」の正しい意味と語源、さらには例文を通した使い方を解説していきます。
「罷免」の使い方をマスターすれば、政治や行政への詳しさを醸し出せるかもしれません。ぜひ覚えてみてください。
罷免の意味・使い方
【読み】ひめん
【意味】強制的に公職をやめさせること。
免職と同じ意味だが、高位の公務員の場合につかう。
単に役職から退かせる降格や左遷とは違い、通常は公務員としての身分(官職)の剥奪も同時に行われる場合を指す。
高い地位・肩書のある公務員を辞めさせる場合に限定して使われる、若干特殊な言葉です。
例文
- 憲法第68条の規定により、内閣総理大臣は、採決を棄権した大臣を罷免した。
- 裁判官が辞めさせれるのは、弾劾裁判において罷免の宣告がなされた場合に限る。
- 憲法第15条では、国民は公務員を罷免する権利を有していることを規定している。 しかし実務的にどうするかを規定した法令は無い。
- 韓国においては、国会が大統領を弾劾訴追できる権限を付与しており、実際に罷免された大統領がいる。
罷免の「罷」は大きな口を開け、尾を振り上げて襲ってくる熊を、網で捕える様子を表し、熊と網の象形文字から成立しました。
ここから、古代中国では、不正などを働いた役人を捕える意味に使っていたようです。
日本に伝来したのちは、主に、「上位者の職務命令によって地方へ赴く・下る、或いは上位者のそばから退出・退去する」という意味に使われました。
例えば万葉集には、地方へ赴任する山上憶良の歌が残っています。
憶良らは 今は罷む(まからむ) 子泣くらむ それその母も 我を待つらむそ
罷免の 「免」 は「子を産む」「子が抜け出る」という元の意味から、
「ある状態をまぬがれる」、更に転じて「解く ・ 剥奪する」 を意味していました。
こうして、「罷免」 は上位者の命令により (職を) 解かれる・剥奪されるという意味も表すようになりました。
一般的な言葉である 「クビになる、解雇される」 と似ているようですが、例文のように、いわゆる「立場のある人、偉い人」 が周囲から辞めさせられる際に使う言葉であり、その処分も含めて、クビよりも重々しい感じがしますね。
因みに、例に挙げた韓国の大統領の場合、罷免されたのちは無職になったわけです。
しかし、日本の大臣は殆どが国会議員から選ばれている為、「大臣」という公務員としての官職を剥奪されても、国会議員という立場は残ります。
罷免が使われる熟語
「高位の公務員を辞めさせる」という、限られた場合に使うことばであることから、
罷免が使われる熟語も限られています。
- 罷免権
- 罷免要求
- 罷免請求
罷免権の意味
大臣などの閣僚を辞めさせることができる、総理大臣(首相)が保有する権利を指します。
閣僚以外に、内閣に直属する一部の公務員、及び海外に赴任している大使についても、首相が罷免権を保有しています。
罷免要求の意味
ある閣僚(大臣を含む)を辞めさせるよう、
国会議員が総理大臣に要求することを指します。
大臣などの不祥事や失言が発覚した場合、野党が首相に対して
「あのようなことをする大臣は、ふさわしくない。
任命した責任は総理にあるのだから、総理から辞めさせるべきだ。」
と主張することがあります。これが「罷免要求」です。
一方、首相は自分の権限だけで大臣を辞めさせることができます。
これが「罷免権」です。
しかし、首相が他の大臣を罷免する場合には、首相の任命責任は大臣の辞任よりも強く野党から問われる為、実際には大臣に対して形式的には辞任させる、というケースが殆どです。
したがって、大臣などの閣僚が「罷免」となった事例は、今の憲法のもと72年間で8例しかありません。
罷免請求の意味
都道府県の知事や、市町村長といった首長を辞めさせるよう、
国民(有権者)が請求することをいいます。
具体的には、ある自治体の首長を辞めさせたいと思う有権者が三分の一以上になれば、
選挙管理委員会に対して「住民投票」を請求できます。
そしてこの住民投票で「解職」の票が過半数になれば、その首長は解職となります。
罷免と更迭はどんな違いあるの?
「罷免」に似た言葉に「更迭」があります。
さきほど例示した、首相が大臣に対して、形式上は自発的に辞任させることを、よく「更迭」といいます。
「高い地位についている人間の役職を解く」という意味では、
「更迭」は「罷免」と同じ意味ですが、「更迭」の場合には、「役職を解き、別の人間を当該役職に充てること」も含んでいます。
つまり、更迭は「入れ替えること」で、交代(させる)と言い換えることもできます。
また、「罷免」を使うケースが、大臣などの閣僚・裁判官・自治体の長・大使などに限られているのに対し、「更迭」の場合は、中央省庁や地方自治体の幹部、検察・警察・自衛隊の幹部、国会委員長にも使われます。
一方、新聞などの報道では、政党の要職者の他、大企業幹部やスポーツチーム監督といった民間の要職者に対しても使うなど、用途の幅広さも「更迭」との違いです。
罷免の類義語・対義語

仕事などの役職・地位から退かされる、という意味で、もともと一定の役職や地位に居た場合に使うことばということを、ある程度ご理解いただけたかと思います。
そこで「罷免」の類語を挙げてみようと思います。
- 解雇
- 免官
- 免職
類語①「解雇」
地位や役職に限らず、雇用主や上位者の一方的な決定により労働契約を解除し、被雇用者(労働者)として地位を剥奪することを解雇するといいます。
尚、解雇に対して、労働者側から自主的に労働契約の解除を申し出ることを
「依願退職」と呼んでいます。
・ 病気療養による欠勤が一定期間を超える場合、解雇されることになる。
・ 解雇されたことを不当だとして訴えた裁判で、主張が認められ、
類語②「免職」
公務員が解雇される場合には、公式には「免職」ということばを使います。
- 社会保険庁が日本年金機構に移行した際、人員整理による分限免職者が発生した。
- 教職の立場にあるまじき行為が発覚してしまい、懲戒免職になった。
- 非行について任命権者である上司が諭し、自発的に辞職するように促して同意する退職を、諭旨免職という。
類語③「免官」
「免職」のうち、一定の地位にある者が解雇される場合、
公式文書では「免官」と記録します。
「罷免」を使うのは、更に上位の立場にあるものの場合に限られています。
- その一等兵は戦地から戻った翌日に、免官となって帰省した。
- 律令体制の時代、少納言や山城守といったタイトルを一定期間剥奪される刑罰のことを「免官」と呼んでいた。
対義語①「任命」
元々は公務員に対して、新たな役職に任ずる際に使っていたことばです。
また、基本的には、任じるものの方が上位である場合に使います。
- 内閣総理大臣は、国会の指名により天皇が任命する。内閣総理大臣は国務大臣を任命する。
- 任命権を持つ者は、内閣総理大臣,各省大臣,人事院総裁などに限られている。
- 適任者を、その出張所の所長に任命した。
対義語② 「登用」
やはり元々は官職などに取り立てることを指していました。
- 多くの人の中から人材を登用する。
- 女性管理職の登用が待たれている。
- 優秀な経験者を登用する。
対義語③「抜擢」
多くの人の中から特に選び出して、重要な役目に命じることを指します。
- この度、ドラマの主役に抜擢された。
- 彼を部長に抜擢したのは、実は退任する社長であった。
- 「大抜擢だね」と他人に言うのは、決して誉め言葉ではない。
罷免の英語表現

直訳すると、 dismissal という、「解雇」 の意味で最も一般的な英単語が該当します。
このほかには、日本語としても使われているrecall (住民投票の手段を経るケース)などがあります。
ただ、お役所などで使うことばが特別に存在するという国は、日本以外にはありませんので、公務員用に専門に使う英単語はありません。
例文①:Dismissal
They demand the prosecutor’s dismissal because of an impropriety.
(彼らは、不正を理由としてその検事の罷免を要求した。)
例文②:recall
Governor of Tokyo was recalled.
(東京都知事の罷免が要求された。)
まとめ
「罷免」は、 「職から離れさせる、解雇する」を意味し、
高い地位・肩書のある公務員を辞めさせる場合に限定して使われる、
若干特殊な言葉です。
一般企業に勤務している場合に使うことは、あまり考えられませんが、
新聞記事には出てくることがあります。
また、役所の刊行物で用いられ、場合によっては外国の人に説明する機会が出てくるかもしれません。
そんな時に、英語での意味を理解しておくと、活用することができるでしょう。
✔ 転職支援実績が豊富。地方にも強い