「惰性で仕事をするな」「惰性で生きるのはよくない」など、惰性は良い意味で使われないことが多い言葉です。
では、惰性とはどういう意味なのでしょうか?
使われるシチュエーション、意味を何となくわかった状態で使っていると、思わぬ誤用をしてしまうことがあります。
この記事では、惰性の意味と使い方について解説します。
惰性の意味・使い方
【読み】だせい
【意味】
- これまでの習慣・行動、勢いが続いている様子
- 物質がそれまでの運動状態を保とうとする性質
①これまでの習慣・行動、勢いが続いている様子
良い意味では使われない場合がほとんどです。
以前から行っていた事柄が、改善、改良されることなく、そのまま続けられているさまを意味します。
勢いが続いている、という意味ですと、良い方にとらえられがちですが、悪い意味での”勢い”がだらだらと続いている状態を表しています。
例文
- 今の彼とは、学生時代からの惰性でつきあっている。
- やる気もやりがいもないが、惰性でこの仕事を続けている。
- 惰性で勉強しても効果は上がらない。
- すでに興味を失っているが、惰性的に続けている趣味がある。
惰性という言葉をタイトルに使った、「惰性67パーセント」というマンガでは、そこそこ楽しい日常がだらだらと続く状態が描かれています。
この、だらだらという感じが、惰性という言葉の意味にとって重要です。
それはそれでよい、という感じ方をする方もいらっしゃると思いますが、やはり惰性という言葉は良い意味では使われないようですね。
②物質がそれまでの運動状態を保とうとする性質
あるものに力を加えて動かしたとします。その力を加えることをやめた後も、ものが動き続けることを「惰性」と表現します。
科学用語の一つとして使われます。
「慣性」という言葉がほぼ同じ意味で使われる事がありますが、正確にはニュアンスが異なります。この違いは後述します。
例文
- 扇風機のスイッチを切った後、羽はしばらく惰性で回っている。
- エンジンによる加速、ブレーキによる減速もなく、その車は惰性で動き続けた。
- 倒れたボーリングのピンは、惰性でくるくると回った。
- 無重力空間で物を投げると、惰性で動き続ける。
科学的な意味、を考えると少し難しい感じがするかもしれません。
しかし、日常生活の中に、この意味での「惰性」で表される現象は多くあります。実際に目にすると、こういうことかと簡単に納得できます。
惰性が使われる熟語
惰性の惰を使った言葉はそこそこありますが、惰性を使った熟語はほとんどありません。挙げるとすれば、下に挙げる熟語のみです。
- 惰性系
惰性系の意味
説明すると、非常に難解な物理学的な説明になってしまいますので、できる限り簡単に説明します。
全ての物体は、外からの力を加えない限り、止まっているものは止まっているままです。また動いているものは、同じ速度で動き続けます。これはニュートンの運動第一法則と言われます。
この法則が成立する条件を、惰性系、または慣性系といいます。
惰性と慣性はどんな違いあるの?
惰性と慣性は、同じ意味で使われる事があるがニュアンスが異なる、と先に書きました。
慣性の意味は、「外から力が加わらなければ、物質はそのままの状態、運動を保つ」という”法則”の意味を持ちます。
一方で、惰性は、「外から力が加わらなければ、物質はそのままの状態を保っている」という”状況”を表しています。
そして、人間の感情や行動については、慣性という言葉はほとんど使われず、惰性という言葉で表現されます。
惰性の類義語・対義語
「惰性」の類義語として、次の4つを紹介します。
- 因習
- 習慣
- 悪癖
- 漫然
類語①「因習」
しきたりとして古くから行われていることですが、良くない意味に使います。何らかの弊害を生むことをこの言葉で表現します。惰性と異なる点は、因習は何らかのこだわりによって行われ続けている、それを行おうとする強い意志が存在する、という点です。- 因習にとらわれ、事がなかなか前に進まない。
- 改善しなければならないが、因習によってできない。
- その人達は因習に縛られ、生産性を失った。
類語②「習慣」
日頃、規則的に行うことを意味します。習慣という言葉だけでは、良い意味でも悪い意味でもありません。良い悪いを表現するときには、良い習慣、悪い習慣、と表現します。- 勉強の習慣は大事だ。
- 夜中にお菓子を食べるのが習慣になってしまった。
- 習慣的に夜更かしをしている。
類語③「悪癖」
悪い習性、悪い習慣を意味します。本人が意識的にやっている、無意識にやっている、どちらの場合でも、その人が習慣的に行っており、かつ悪い習性であれば、この言葉で表現することができます。- ネットでサーフィンで時間を浪費するのは悪癖だ。
- 借りた物をなかなか返さない悪癖がある。
- 指摘されるまで悪癖と知らず、当然のようにやっていた。
類語④「漫然」
目的を持つこともせず、ぼんやりと、とりとめもなく、いい加減に、という意味です。類義語の中で、惰性というニュアンスにかなり近い言葉です。良い意味で使われる事はほとんどありません。- 漫然とした学生生活を送ってしまった。
- 漫然と仕事をしたために、ミスが続出した。
- 教科書を漫然と眺めていた。
対義語①「改善」
惰性、の対義語は、文脈や使われている意味で変わります。そのため、これといった対義語がありません。前からの事柄をだらだらと行う、というニュアンスで考えると、近い言葉は改善ではないかと考え、ここに挙げました。意味は、よくすること、改めて良い方向に持って行くこと、です。例文も、惰性と対義になるような意味で使われる例を挙げました。- 生活習慣の改善が必要だ。
- 勉強態度を改善した。
- 物事に対する態度を改善した。
惰性の英語表現
日本語での惰性は、人間の行動などを指すときと、物質・物体の運動を指す場合がありましたが、英語では、この2つは異なる単語で分けられています。
状況や文脈によって単語の使い分けが必要ですので、きちんと把握しておかないと相手に意味が通じないことがあります。
人間の惰性と物質の惰性の意味で訳されることが多い
例文①:人間の惰性の英単語
I ate the snacks from force of habit.
(私は惰性でその軽食を食べました。)
I kept talking from force of habit.
(私は惰性で話を続けた。)
I am working now feels like a sheer force of habit.
(私はもはや、惰性で仕事を続けているようだ。)
例文②:物質の惰性の英単語
The train continued to run with inertia.
(列車は惰性で動き続けた。)
The windmill is moving for a while by inertia.
(風車は惰性でしばらく動いている。)
物体の惰性を表す英単語は、inertiaの他に、車や自転車の惰性は、coastで表すこともあります。
また、飛行機の場合はglideという単語を使うことがあります。動力なしで滑空するグライダーは、このglideを変形してgliderと書きます。
まとめ
惰性という言葉は、褒め言葉や良い意味で使われる事が非常に少ない言葉です。この記事は、惰性と同じ意味で使われる慣性という言葉との違いを含めて以下の事を解説しました。
- 惰性の意味・使い方
- 惰性の熟語
- 惰性と慣性の意味の違い
- 惰性の類義語・対義語
- 惰性の英語表現
ネガティブな事柄で使う言葉ですので、使用する際には話す側がしっかりと意味を把握して使わないとあらぬ誤解を受けるケースがあります。
また、英語表現の中で使うとき、特に人間の行動において使う際は慎重さが必要です。そういう人間だと思われてしまうと、不利益を被る事がありますので、よほどのことがない限りは「惰性でやった」という表現は使わない方が無難でしょう。